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ればならない。
外力は衝撃加速度によって規定する。艇は、その乗艇者の能力によって受ける衝撃加速度が制限される。
人は上下方向の加速度を受けると血液及び内臓に強い影響を受ける。例えば、飛行機の急降下引起しの場合、遠心力により大きな加速度を受ける。全身の血液が足の方に下って脳の血液が不足してブラックアウトといった現象を生ずる。今日では、飛行機にはGスーツというものがあって、加速度を感知すると飛行服が体を締め付けて血液の下降を防ぐが、昔は訓練によって耐えられる限界は6gであると言われた。飛行機でGのかかっている時間は秒単位で測る程度になるが、波浪中航行によって高速艇の受ける衝撃加速度は、排水量100トンクラスの艇でも0.1秒程度のごく短いパルスである。
不規則波中を航走すれば波との出会いごとの加速度は大小さまざまであるが、数分間に1個という程度の最大加速度が6gというのが、高速艇乗員として訓練された乗員が正常な思考能力と作業能力を持つ限界と考えられている。不規則波には異常な波高を持つ波も混じっているので、時には8gあるいは10gといった衝撃を受ける可能性があるが、1回だけのそのような衝撃は乗員の行動に支障を与えることはほとんどない。
乗員に与える衝撃の影響は血液の下降ばかりでなく、胃腸などの内臓に対する連続した衝撃がある。体力的にはこれが持続力の決め手になるのかもしれない。これに耐えるためには腹筋を締める。常時、力を入れてばかりは居られないので、衝撃を受ける瞬間に腹筋を締める。これを反射的にできるようになるのが高速艇乗りの訓練の最大の要件である。
業務用高速艇として最も烈しい使い方をされる種類の高速艇は、衝撃加速度6gを設計上の限界とすることができる。これは訓練された乗員によって運用され、必要に応じて乗員の能力一杯まで性能を発揮しなければならない艇、例えば魚雷艇・ミサイル艇などの軍用船、救難用高速艇等である。
外洋レーサー等のモーターボートは30g程度の衝撃を受けることが報告されている。1トン前後のスピードボートで計測した衝撃加速度とその持続時間は、三角波形のパルスとして、35ノットのA艇で、20g 0.024秒、15g 0.02秒、50ノットのB艇で、16g 0.017秒、14g 0.04秒といった計測例がある。いずれもFRP製柔構造の船体の計測例なので、より剛な金属艇体とは多少の相違があるかもしれない。この種の艇には金属艇の実績は少ない。
この種のFRP艇は加速度6gとして構造設計をして結果は良好である。金属艇の場合は動的設計による検討が必要であろう。
外洋レーサーは、初期には座席のショックアブソーバーを種々考案して、例えばオレオ式油圧ダンパーやトーションバーを採用するなどしていたが、ストロークが不足して衝撃吸収力が不十分なため、近年は座席を廃止して立席とし、膝・腰のバネを利用するのが主流になっているので、衝撃加速度は30gよりさらに大になっているかもしれない。
衝撃を受ける瞬前に腹筋を締めるのであるから、Gを感知して作用するGスーツのようなもの

 

 

 

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